開発スピードの一層の向上を通し証券業界のニーズに対応
顧客目線で幅広いサービスを提供するみずほ証券株式会社。資産導入額が7年連続で1兆円を超 えるリテール・事業法人部門の預かり資産は46.5兆円(2022年3月末時点)。一方のホールセール 部門も、国内公募債でシェアトップを獲得するなど大きなプレゼンスを確立している。
進取の企業文化は、IT・システムグループの取り組みにも反映されている。IT基盤統括部 部長の小 林 弘明氏はこう説明する。
「証券業界の場合、市況が好調なときはシステム開発が加速することが一般的です。しかし開発の スピード感が強く求められる一方、コンプライアンスをはじめ、いわゆる規制産業としての制約も多 く、スピード感を上げにくいことが課題であり続けています。こうした状況を受け、ITプラットフォーム 運用の自動化に向けたタスクフォースを数年前に立ち上げ、サーバIPアドレスの割り当てなど、運用・ 管理の自動化を積極的に行ってきました。より迅速な開発環境の提供に積極的に取り組むことは当 社の特長の一つと言えます」
本番・開発環境の分離の徹底と開発環境の迅速な提供にDelphixを採用
IT基盤統括部にとり、大きな課題の一つとして浮上したのが、J-SOX法を受けた本番・開発環境の 分離だった。同社DBには顧客名や連絡先、口座番号等のセンシティブなデータも多く、テストデータ のマスキングはこれまで開発者自身が手作業で行ってきた。本番・開発環境の分離では、その作業を 本番環境の権限を持つ部門が引き継ぐ必要があるが、それはDB管理者の負荷に直結する。こうした 中、同社が注目したのがDelphix DevOpsデータプラットフォームによるマスキング自動化だった。IT 基盤統括部 安藤 智氏はこう振り返る。
「当社は現在5名のDB管理者が800を超えるシステムを見ていますが、この体制で手作業のマス キングを引き継ぐことは、開発環境の提供において大きなボトルネックになることが予想されました。 その回避のために注目したのがDelphixでした。当時は国内実績がまだないソリューションでした が、良いものはいち早く取り入れるという当社の企業文化もあり、導入に至りました」
仮想化により基礎的なデータブロックを共有することで、コピー先のリソースを消費することなく 利用できることも評価した点の一つだったという。
2016年末に導入したDelphixが本格稼働したのは2018年のこと。現在、日次、週次でコピーした 開発用の仮想DBのデータについてはレプリケーション後すぐに開発に利用することが可能だ。
「データ量にもよりますが、以前は申請後1週間をめどにデータをコピーし、1、2日掛かりでマスキン グを行っていたことを考えると、開発環境のいち早い提供という観点でDelphix導入により得られた 効果はとても大きいと思います。開発チーム側からも高い評価を受けています」(安藤氏)
テストを自動化するCI/CDにDelphixの仮想化DBを活用
Delphix活用の次のステップとなったのは、開発テストの自動化を目的としたCI/CDへの活用だった。
「開発テストでは、シナリオに基づいたテスト環境を用意した上で、結果と期待値を比較して合否を 判定しますが、それらを手動で行う場合、テスト環境の準備と結果の分析の双方に複数の工数が発 生します。それはリリースのリードタイムが伸びるだけでなく、本来なら実行したいテストの実施を妥 協してしまうことにもつながります。Delphixのテストデータのセルフサービス機能がこの課題の改善 につながるのではないかと考えたことが、Delphixの仮想化DBを基盤としたCI/CDの仕組みの構築 に取り組んだ理由です」(安藤氏)
評価テストに協力したのは、テストにあたり自分たちが主管しているDB以外のデータを必要とす る開発チームだった。
「当時、チームが直面していた課題は大きく3つありました。一つは複数のDBのデータ断面を揃え ることの技術的な難しさです。二つ目が複数DB管理者への申請の手間と申請後のリードタイムの長 さ。最後が手間を掛けたにも関わらず、断面が揃わず、差分をチェックし、手作業で修正する手間が生 じていたことです。それらは、Delphixを基盤としたソリューションの効果を測定する上で有意な課題 でした」(安藤氏)
ここで、同社が行ったテスト自動化ソリューションの全体像を整理しておきたい。ソースリポジトリ 管理はGitHubやGitLab、テストパイプライン実行はJenkins、データ加工・調査はpython、本番デー タ管理・テストデータマネジメントをDelphixで行うというのがシステムの基本構成で、リポジトリに プログラムをデプロイすることでテストは実行される。テストは、Delphixが複数DBの基準日時の データ断面を用意し、Jenkinsがバッチをキックすることでスタートするが、両者の連携はDelphix側 のAPIによって行われる。
「Delphixによる自動化の効果は大きく二つあります。一つはデータベース管理者の手を煩わせる ことなくテスト環境が準備できるようになった点。もう一つはDelphixのブックマーク機能を利用する ことで、スキーマ変更を伴うテストにおいてテスト前後のDBの突き合わせが自動化できた点です。開 発テストでは同じデータ断面を繰り返し利用したいというニーズも多いのですが、従来であれば、そ の都度DB管理者にリストアを依頼することになります。ブックマーク機能によりDB管理者にリストア を依頼することなく、即座に仮想DBを巻き戻せることも好評でした」(安藤氏)
テストに協力した開発チームの例では、同じデータ断面で再テストするのに1週間の準備時間が必 要だった状況が、Delphixのブックマーク機能を活用することで、1日に何ショットものテストを実行す ることが可能になったという。
一歩進んだテスト環境デリバリに向け Delphixの活用を推進
Delphix導入は、コストの観点でも大きな成果を生んでいる。
「現在、開発部門のニーズが大きいシステムを中心にマスキングを自 動化していますが、もしそれを手作業で行おうと思うと、専任の担当者 が10名必要です。そういう意味では、Delphixは年間約1億円の人件費 削減に貢献しているとも言えます」(小林氏)
IT基盤統括部の本来的な課題であるテスト環境のより迅速なデリバ リにおいて、Delphixへの期待は極めて大きい。
「開発環境のデリバリ高速化はこれまで以上に重要な課題なると考 えられます。そのためにもDelphixのマスキング自動化やDB仮想化と いう優れた機能はまだまだ完全に使いこなしきれていません。今後は Delphixの機能をフル活用し、CI/CDを一層推進していきたいと考えて います」(小林氏)